2016年1月29日金曜日

「村上隆の五百羅漢図展」森美術館のソーシャルメディア運用が、カンペキすぎて困る




昨年末、六本木ヒルズにある森美術館の「村上隆の五百羅漢図展」に行ってきました。それまでハイソそうな森美術館に、興味はありませんでした。村上隆さんの作風も、好きではありませんでした。著書は読んでいて、発想やスケールが凄いとは思っていました。








ところがこのところ、再度行きたくなって、ウズウズしています。
それもこれも、森美術館のTwitterのせいです。



先入観を凌駕する「村上隆の五百羅漢図展」というコンテンツ


私が美術館に行くことは、年に1度あるかないか。ギャラリーになら、仕事で行ったところの近くにあれば入ります。個人的に、お金も時間も使う美術館は、雑誌や書籍、ネットで見る以上の、触覚に訴えるようなものがないと価値がないと思っています。
平面的な絵画でも画材やキャンバスの質感を見ると、写真では感じ取れない何かが迫って来ます。


村上隆さんは「スーパーフラット」を提唱するアーティスト。漫画やアニメーションから影響を受けた平面的な絵画形式は、確かに日本絵画の、西洋的な写真的遠近法を用いない表現と相通じるところはあり、日本発のコンセプトとして重要だと思います。
それでも村上隆さんの描かれるモチーフに、まったく興味がありませんでした。


ところが五百羅漢図は、全長100メートルに及ぶ巨大絵画だというのです。五百羅漢は、釈迦の教えを広め、煩悩を滅し人々を救済した500人の弟子たち。村上隆さんは、東日本大震災の絶望からの復活には、たとえ作り話でも、希望を唱えるお話が必要だと、五百羅漢というテーマに取り組んだそうです。







巨大絵画を見るには、展示されている場所に立たないと迫ってきません。村上さんが希望、救済という目的を掲げたことにも興味が湧きました。

「村上隆の五百羅漢図展」では五百羅漢図だけではなく、さまざまな日本初公開の村上作品が展示されています。五百羅漢図や大型の彫刻作品には、ただただ圧倒されます。
ポップアートであり日本画的であり、デジタル的で平面的なレイヤー構造なのに、奥行きがあって、質感とは言えないけれども深みがあるという圧倒的な表現力です。

そして五百羅漢図は、全国の美術大学から200人以上の学生を集めて制作されたそうです。その人たちへの指示書や作業フローまで公開されています。
いわば創作の裏側まで、開けっぴろげに公開しています。これまで美術作品は、意図や裏側が小出しにすることで、美術界や世間の興味を喚起するやり方がほとんどだったと思います。しかし「村上隆の五百羅漢図展」はその裏側まで、最初から展示してしまっているのです。

このパートの主題の朱雀。近世の着物にあしらわれたあしらわれた鳳凰の絵柄を元に、手塚治の「火の鳥」のイメージも加味されている。
なんてことも解説されています。
この解説は多面的に重要で、書いていないと「パクリじゃないか」と言われてしまいます。イメージの剽窃や搾取ではなく、引用・オマージュだと自ら公開しています。
何も感じなかった人にとっては、思わず人に話したくなるネタではありませんか?





作品の数も表現に詰め込まれた情報量も膨大なのに、周辺の情報も盛りだくさん。これ、1回行ったぐらいじゃ、全部吸収するのは無理です。
森美術館がソーシャルメディアで発信しようと思えば、限りなく出し続けられます。見に行った人は、そんなことがあったのかと、改めて記憶と興味を引き出されます。
それだけじゃないんです。村上羅漢ロボが投入されたり、狩野一信《五百羅漢図》の入れ替えがあったり、グッズやらカフェやらイベントやら、あたらしい動きを発信し続けているのです。
なんかもうディズニーランドかと思えるような(笑) 



実況までしてしまう森美術館のTwitterアカウント


やっと本題です。カンペキすぎる森美術館のソーシャルメディア運用について、書いていきます。
「再度行きたくなって、ウズウズしています。それもこれも、森美術館のTwitterのせいです」と書いていますが、Twitterでは実況までやっています。実際はタイムラグがあるはずですが、先に書いた村上羅漢ロボの投入やサイン会、狩野一信《五百羅漢図》の入れ替えを実況しているのです。
村上羅漢ロボは大晦日にセッティングレポートを、写真や動画を交えて14本ツイートされています。

こんなことを大晦日にやられても困ります(笑) 

うちも実況は、何度かやらせていただいています。現地で撮った写真を共有しながら、順次ほぼリアルタイムで会社からツイートしていました。これまでの経験だと、ひとつのツイートに興味を持ってくれた人はすべてのツイートを見てくれているのだろうなと思えるインプレッションでした。かなり有効な手段です。

村上羅漢ロボは、設置以前に行った人たちも見たくなるのではないでしょうか。ロボ自体の、いったいこれは何?と興味をそそる外見ですが、中には村上羅漢の絵が展示されているのです。私は絵にもギョっとしましたが、あれが立体になって動くのかと思うと、ムズムズしてきます。
ロボは入口に設置されているのだと思いますが、人が近づくとセンサーで般若心経を唱えるそうです。そんなロボを組み立て、服を着せ、設置完了までをツイートしているのですから、興味のレベルも高まります。
ただ14本も続けてツイートしたら、あまり興味のない人はリムーブ(フォローを外す)してしまうかもしれません。この場合は、構わないと思います。そもそもロボ設置実況がウザいと思う人は、そもそも森美術館には来ないでしょう。たぶん仕事上かなにかの理由で、ただチェックしている人が多いのではないでしょうか。

連続ツイートの回数とリムーブの関係は注視することが必要ですが、新たなフォロワーで増加していれば問題なし。それに時系列で追っていたり、ストーリーのある展開なら、ファンの関心を強化してくれると、私は考えます。



他のソーシャルメディアとの連携


Twitterでは次の展示などについても発信されていますが、「村上隆の五百羅漢図展」や、それに関連するリツイートや様々なイベントについてもツイートしています。
Twitterが核になっているということではなく、他のソーシャルメディアと連携し、役割分担しながら運用されていて、そこも見事です。
展覧会が始まったのが10月31日ですから、すでにほぼ3ヵ月が経過しています。

年末年始に面白かったのは、★初詣は森美術館へ★【知られざる、羅漢の神通力】と題して、写真を付けずInstagramやFacebookのアカウントに誘導しています。
大晦日は村上羅漢ロボの設置実況があったので、それ以上Twitterでうるさくするのは避けたいところです。
初詣とは、なかなか強引なタイトルだなと思ってリンクをクリックしてみると、その羅漢についての解説とクローズアップした写真が出ています。それなりにちゃんと読ませたいなら、Facebookですよね。しかも「勝負や試験での必勝のご利益がありますように」にと書かれています。


★初詣は森美術館へ★【知られざる、羅漢の神通力 その六】特に優れた釈迦の弟子である十六羅漢の第十五尊者、阿氏多(アジタ)。仏典の一部では弥勒菩薩と同一人物とされ、釈迦の次の仏となることが約束されている。勝負や試験での必勝のご利益があ...
Posted by 森美術館 on 2015年12月31日


なるほど、都心に住んでいて帰省などで出かけないという人、地方出身者ではない人たちもいらっしゃるはずです。受験生もそうでしょう。「村上隆の五百羅漢図展」で初詣なんて、気分転換にいいかもしれません。ただ調べると会期中無休ということが書いてありますが、投稿にも営業時間を含め書いておかないのは片手落ちだと思います。

ともあれ初詣に向いているかどうかは、あまり関係ありません。多くの人に羅漢がどういう聖者なのかを知ってもらって、「村上隆の五百羅漢図展」に興味を持ってもらえればいいのです。
過疎っている大晦日や年末年始にに、この切り口が有効なのは間違いありません。脱帽です。
過疎っている年末年始に、ソーシャルメディアで成果をあげるには


Facebookで実況をしても意味がありません。そもそもファンのニュースフィールドに表示されません。“なう”が有効なプラットフォームではないので、リアルタイムはあきらめて動画を投稿すればいいことです。


それぞれのプラットフォームで最適な動画を作り分け


森美術館は、動画も数多く作られています。



どちらもYouTubeにアップされているもので、上が[プレビュー&レセプション]下が[メイキング映像]です。

これを書いている29日夕方の時点で[プレビュー&レセプション]が1,012回再生。[メイキング映像]は85,012回も再生されています。
これは何を意味しているでしょうか。前者が12月24日公開で、後者が10月20日公開ですから順番が逆です。
森美術館は、[メイキング映像]を展覧会が始まる前にティーザーとして出したということですね。さまざまなパブリシティでも、こちらの[メイキング映像]が使われています。
[プレビュー&レセプション]が千回程度しか再生されていないということは、YouTube上で見てもらうことは、あまり期待されていない。さまざまなニュースサイトやウェブマガジン、あるいはブログに貼付けてもらうためのプラットフォームとして、YouTubeのフォーマットを利用しているということですね。


Twitterのプロフィールページトップには、YouTubeに出している[メイキング映像]と同じ素材を使い、短くした投稿が固定して表示されています。
Facebookページのトップには、Facebook用に書き出した[プレビュー&レセプション]が固定されています。
FacebookにYouTube動画を貼付けると、ファンのニュースフィールドには動画部分が小さく表示されてしまいます。Facebookに動画をアップロードすると、大きく表示されます。細かいところですが、YouTubeでは[プレビュー&レセプション]が1,012回しか再生されていないのに、Facebookでは71,000回の表示になっていますから、手間をかける意味は大きいです。


LET'S POST ON 撮影OKは、Instagramにあたらしい風?


森美術館入口で、驚いたことがあります。それは撮影可能!! 動画撮影もOK!だと書いてあるのです。TwitterでもFacebookでも告知されています。

いやいや、どこの美術館やギャラリーでも撮影は不可です。もしかしたらあるかもしれませんが、聞いたことがありません。
森美術館がやっているソーシャルメディアの投稿だけだって、美術館としては型破りでアグレッシブなのに、入場者に「撮影して、シェア!」と促しているのです。「村上隆の五百羅漢図展」と書いてあるから、村上隆さんがそう考えたのか、森美術館のポリシーなのかどっちだろう。
そんなことを思っていたら、見に行った直後に、たまたま読んだ本に書いてありました。

「シェアをデザインする」という本に林千晶さんという米クリエイティブ・コモンズの方が書かれた文章から、長いですが引用します。

しかし来館者の大多数は作家のファンであり美術館のファンですから、彼らが作品を見て感動を記録したり、オンラインで広めようとすることを、何万人に1人いるかどうかわからない違法な人を前提に禁止するのはもったいないのではないかと考えたのです。
そこで森美術館では来館者に対して条件付きで写真撮影を認める動きが始まりました。来館者がクリエイティブ・コモンズの条件に則って写真撮影をし、ブログに上げたり、個人的な利用で作品の素晴しさをプレゼンしたりすることを許可する取り組みです。
これは作家と美術館に来館者の善意を信用してもらうことで実現しました。最初に実現したのは、中国を代表する現代作家アイ・ウェイ・ウェイの展覧会でした。彼にこの話を持ちかけると「もちろんだよ!」と即座に許可してくれたそうです。



この文章からすれば、まず森美術館が撮影をOKして、ソーシャルメディアで広げたいわけですね。
しかもその第一弾がアイ・ウェイ・ウェイだったとは、驚きです。アイ・ウェイ・ウェイは創作活動以外に、政治的な発信が多く中国で軟禁されたりしていますから、いくら世界的に有名でも国立や公立の美術館では開催が難しいかもしれません。
アイ・ウェイ・ウェイは立体を創る人なので、美術館で見たいです。森美術館でやっていたなんて知りません。これは森美術館も追いかけないと、と、にわかにファンになりました(笑)


撮影OKですから、館内ではスマホのシャッター音があちこちでしていました。作品をバックに、自撮りしている人たちも少なからずいました。



Twitterでも数多く見つけられますが、最も盛り上がっているのはInstagramのようです。考えてみれば当然で、アートを撮ったものはそうありませんでしたが、モチーフとしては最適です。
Instagramで広がるということは、これまで美術館が広告してもパブリシティをしても届かなかった層。特に若い女性にも広がるということですから、とても大きいです。
顔が写っている自撮りもあります。

Chanel Christine (chaneru) 🦄さん(@chanelchristine_)が投稿した写真 -

Mavis Tsaiさん(@m1485)が投稿した写真 -

AdrianLanderさん(@adrianlander)が投稿した写真 -

あえて外国人観光客らしき方々の投稿を選びましたが、もうとんでもないことになっています。
自撮りして投稿する人にとっても、特別な機会、特別な場所になっている気がします。これいいでしょと投稿したい人にとっても、心踊るようなサプライズかもしれません。私は「村上隆の五百羅漢図展」に行ってから、二度ギャラリーに行きましたが、どうして撮影OKじゃないんだ。投稿したいのに!と、身悶えするほどです(笑)

美術館が撮影OKにしたことの効果は、絶大です。

森美術館のソーシャルメディア運用は、日本のどの企業アカウントよりも優れている。無駄もなく、参考になる。私はそう思っています。



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